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高校野球とスポーツ傷害理学療法研究会
〜高校野球選手の傷害予防に対する活動紹介〜


注)「スポーツ傷害理学療法研究会」は現・アスリートケア研究会の旧称です。
海外遠征への帯同報告は こちら

 これからご紹介する高校野球選手の傷害予防に対する一連の活動は、1996年から本会の事業として位置付けられ、会員相互の参加協力体制のもとに実践されています。
 甲子園大会は平日にも行われるため、病院等に勤務する理学療法士が連日球場に待機することは困難であり、本会の会員間で調整し1日複数名のシフト体制を組んでいます。その他、海外大会遠征の帯同(同行)も当研究会の事業として位置付けています。


I.はじめに 〜高校球児の傷害予防について〜

 近年、プロフェッショナルスポーツの隆盛や社会構造・ライフスタイルの変化等に伴い、スポーツ観戦を含めたスポーツ愛好家は加速度的に増加しています。その中でも、高校野球甲子園大会は2003年で春の選抜大会が75回、夏の選手権大会が85回を数え、我が国の国民的行事として完全に定着しています。しかし高校野球の頂点である甲子園を目指す高校生、中学生、さらには小学生がトレーニング法の過用・誤用から肩や肘をはじめとするスポーツ傷害により野球選手としての優れた資質を失う例が頻発し、甲子園大会の主催者である財団法人日本高等学校野球連盟(以下、高野連)内でも対応策を検討してきました。
 高校野球選手の傷害予防に対する具体的な取り組みは1993年8月、高野連と大阪大学医学部整形外科学教室の相互協力のもと、大会に先立ち、試合に登板する予定の選手の肩と肘を検診することから始まりました。この検診により肩および肘に傷害の既往を持つ投手や、強度の炎症症状を有して出場する選手が多数いることが判明しました。その結果を踏まえ、1995年12月、高野連理事会において、甲子園大会での投手としての出場禁止規定が設定されました。その他、全国レベルでの野球指導者に対する研修会の開催や傷害予防についてのビデオ制作等、種々の取り組みがなされています。
 これら高校野球選手の傷害予防を目的とした取り組みに、スポーツ傷害理学療法研究会がどのように理学療法士の専門性を活かして関わっているかを具体的に紹介します。

II.本会の活動
 
.検診業務
 これまで甲子園大会では勝ち残っていくチームの投手ほど連戦連投を余儀なくされました。決勝まで勝ち進めば、1回戦からの総投球数は600〜700球にも達することもありました。投手としての素晴らしい素質を大会でのオーバーユースによって失わせないために、大会に先立ち、登板する可能性のある選手全員に対して肩および肘関節に関する検診が導入されました。
 検診は整形外科医師1名がX線検査を含む理学的検査を行い、理学療法士3名が関節可動域、肩関節回旋筋力(右写真)、握力の測定などを担当します(測定項目は毎年検討を重ね変更しています)。大会前検診で肩および肘に重大な傷害が発見された場合は前述の出場禁止規定により、投手としての大会出場が禁止されますが、投手以外のポジションでの出場は可能です。
 検診は大会期間中も引き続き試合後に実施します(準々決勝、準決勝後)。各試合後の関節可動域や筋力の測定結果などと、投手自身が感じる球威の変化等を照らし合わせ、今後の傷害予防対策の重要な基礎資料として蓄積し、日本理学療法学術大会、日本体力医学会、スポーツ傷害フォーラム等で発表してきました。


.甲子園大会中の救急処置とコンディショニング
 1995年春の選手権大会よりスポーツ傷害理学療法研究会所属の理学療法士は高野連の正式な医務スタッフとして、球場内の大会本部に待機しています。選手は試合開始の2時間前に球場へ入り、室内練習場でウォーミングアップを行います。その際に選手の状況を引率責任教師に尋ね、必要であればテーピングやトレーニング指導等を行います。

試合前のテーピング

 試合中にデッドボールや走塁中の衝突等で外傷が生じた場合には、大会本部の要請を受けて直ちにベンチ裏に駆けつけ必要な救急処置を行います。
 また我々は、スポーツ傷害の予防に極めて重要な試合後のストレッチングやアイシング等のクーリングダウンを球場内で実施することを高野連に要請し、1995年夏の選手権大会より、両チームがマスコミの取材終了後にクーリングダウンを実施することが実現しました。

   
試合直後のアイシング
クールダウン指導
ストレッチング指導

 最近では、自校の試合のない日に予約制で疲労回復のためのコンディショニングやトレーニング指導、ストレッチング指導などを実施し好評を得ています。

ビジタールームでのコンディショニング


.国際大会帯同
 1994年末のアジア・ジュニア選手権大会遠征に正式な医務役員として理学療法士1名が初めて帯同(同行)し、現在までに多くの海外大会に帯同しています。
 各大会に帯同した会員の報告を 別ページ に掲載していますのでぜひご覧ください。



.教育・啓発活動
 高野連は投手の肩および肘の傷害予防対策の一環として、『PITCH SMART II 〜投手のための肩・ひじの障害予防法〜』というビデオを制作し、高野連加盟の全国の高等学校に無料で配布しました。肩・肘関節のスポーツ傷害の解説と傷害時や傷害予防のためのトレーニング方法に重点をおいた内容で、大阪大学医学部整形外科スポーツクリニックを中心に本会理事である小柳磨毅が参画してその内容を検討しました。
 一方、全国の高等学校野球指導者を対象に、『投手のための障害予防研修会』が高野連主催で開催され、本会の理学療法士が講師として招聘され、高校球児の障害予防の一翼を担っています。
 また、本会においても、会員理学療法士の総合的なスキルアップを目指し、最新の知識を得るための研修会や、技術習熟を目的とした実技中心のワークショップを開催しています。毎回多くの熱心な参加者を得ています(研修会はオープンに参加者を募り、ワークショップは会員限定で実施しています)。

 
 
ワークショップ風景




III.おわりに
 1996年5月には我々理学療法士の甲子園大会を含めた高校球児のスポーツ傷害の治療・予防への功績に対して、大阪大学医学部整形外科 越智隆弘 教授 と共に本会会長、林 義孝 に高野連から感謝状が贈呈されました(役職はいずれも当時)。高校野球選手の傷害予防に対する取り組みは、ようやく体制が整備されつつある状況であり、甲子園大会に留まらず、少年野球選手の傷害予防対策は、今後さらに全国的に展開していかなければその目的を達成することはできません。本会も理学療法士の専門性を活かし、微力ながら健全な選手育成の一端を担えるようますます研鑽していかなければならないと考えています。

海外遠征への帯同報告は こちら



 本稿は、大阪府立看護大学医療技術短期大学部紀要第2巻(1996年発行)に掲載の論壇「高校野球選手の傷害予防に対する理学療法士の取り組み」および本会機関紙「Beside Athletes第1・2・4・10・11・13・17号」をもとに作成いたしました。


 本稿の一部または全部の転載を禁止します。

以上。

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